鳥羽日記

なんとか亭日乗

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船を漕ぐ人たち

 思えば、ロシアは歴史的に船を漕いでいたような国なのだ。民族的、自然的な意味での絶海をもがきながら渡っている。時に荒波を切り裂き、時に転覆し、そして今も船を漕いでいる。そんな国がロシアなのだろう。

 という訳で、ロシア現代思想についていろいろと学びたいのだがとっかかりはどこにあるだろうか。(展開が早い)

 ひとまずロシアに誕生した思想が善きにつけ悪しきにつけ世界という絶海に波紋を呼び起こしたことは間違いないのであるし、現代でもその余波は残っている。更に厄介なことに、何十年も前に投じられた石の起こした小波(世界的に見て)が、いよいよアクチュアルな空気を持って大波へと変化しようとしているとなれば、注目せざるを得ない。

 その小波が何かと言えば、すなわち人新世である。人新世とは何ぞやという向きも多いと思うので簡単に説明すると、人間が地理や生態系に重大な影響を及ぼすことが可能になってから以後の年代を、完新世に次ぐ新たな時代区分として想定したものであり、トリニティ実験をその起点とするという説もある。

 私も人新世についての知識が乏しいためにここで詳しく解説することはできないが、戦後の急速な変化の中で生まれたきたようなこの思想は、約80年前、既にウラジーミル・ヴェルナツキーとテイヤール・ド・シャルダンという二人のロシア人の手によって、ノウアスフィアという形でその原型が紹介されている。

 ノウアスフィアとは生物圏すなわちバイオスフィアを越えた先に現れる圏域であり、人間の思考の領分だとされている。進歩主義的でいかにも怪しげではあるが、インターネットの発展によって情報の集積が急速に進むと同時に、この思想のアクチュアリティが再検討されるまでに至ったのである。

 ひょっとすると、この情報の海の中から新たな人類のステージが発掘される、いやもしかしたら、新たな人類そのものが誕生するのではないか……? という、なんだか「Serial experiments lain」のような、「GHOST IN THE  SHELL/攻殻機動隊」のような、そんな話である。

 とにもかくにも、この人新世の荒波をどれだけ掻き分けて生き続けられるか。その重大なヒントは、ロシアの思想に隠されているのではないかと私は思うのだ。何となれば、ロシアはノルマン人の一部であるルーシ人をその語源とし、ルーシとはすなわち、船を漕ぐ人という意味があるとされているのだから。