鳥羽日記

なんとか亭日乗

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ねむけ

 書店に行くと井上雅彦ら実力作家らのアンソロジー『さむけ』をよく目にする。表紙が黒字に白抜きの著者名と四角い枠内のタイトルだけなので、結構目立つのだ。……まぁそれだけの話だ。

 一体なぜこんな話をしたのか。それはこういう次第である。一週間程度更新をしていなかったので、これはまずいと即席で記事を書こうと思い立った。その結果適当なタイトルが思いつかず、ぱっと思い浮かぶ三文字をそのままに書いた。まぁ、眠かったのだ。というか今も眠い。はて、ところでこのひらがな表記の「ねむけ」那辺から由来したものか。そんな具合で記憶を巡らした結果、『さむけ』に行き当たったのだ。

 いや、果たしてあの本が本当に発想の源なのか? もっと根本に、別の何かが潜んでいそうだ。第一、私はあの本を読んでいない。それよりも、伊藤潤二の短編「寒気」もそれなりにありそうではある。こちらはきちんと読んでいるし、氏の短編の中でも特に印象に残っている。……いやさ、この「寒気」は漢字表記であって、ひらがな表記の「ねむけ」を連想させるには少し遠い。第一、あの作品のタイトルが「寒気」であることを覚えていたか? あんまり寒気要素ないんだよねあれ……。「ねむけ」という三文字を思いついて初めて作品のタイトルが「寒気」であることを思い出したくらいだし……。

 しかし、心理学者の名前を持ち出してくるまでもなく、深層心理から伊藤潤二の「寒気」の記憶が湧き上がってきたということも充分に考えられる。この理路で行くならば、連想を補強する要素を探してこなくてはならない。ふーむ。「寒気」は体の至るところに穴が開いていく人物の物語だ。うーん……少なくとも現在、身の回りには穴などない。……いやさ、待て。PCの向こう側、冷蔵庫に苺を象ったキッチンタイマーが張り付けられてある。何で手に入れたのか分からないし、そもそも私の趣味でもないのだが、とにかくいつの間にか所持していた苺タイマー! ひょっとすると、苺の粒粒が、「寒気」の体に開いていた穴を想起させたのかもしれない。いや、そうに違いない。

 これで問題は解決だ! 本記事タイトルは、私の執筆開始時点での「眠い」という感情が、冷蔵庫の苺タイマーの粒粒によって想起させられた伊藤潤二の短編「寒気」によってフィルターにかけられ、また井上雅彦らの『さむけ』を経由し、「ねむけ」という三文字のひらがなとして出力されたものなのだ! まさに思索的分析の勝利、人間の弛まぬ英知の為せる技!

 

 と、ここで本記事の隠れテーマのようなものを紹介する。

 すなわち、「理屈と膏薬はどこへでもつく」。

 なにはさておき、眠いから寝ます。