コンテンツを貪る
1.一年
2020年は、結局コロナウイルスに振り回される一年となってしまった。感染者およびその周辺の方々の痛苦は勿論のこと、人々の間で要らぬ分断が発生していったという点で非常に悲しい。
外出自粛の機運の中で何かできることはないかと思って始めたこのブログではある(遅い)が、どれほど続けるかは今のところ未定である。とりあえず今の自分がどの辺りに位置していたかの目安として、一年の間に摂取したコンテンツをここに簡単に記していきたい。
2.小説
まず小説である。今年は以前にも記した通りアジェンデ『精霊たちの家』に始まった。かのサルバドール・アジェンデの遠い親戚である作者が、激動のチリを生きる男と女を家族という視点から描いた。マジック・リアリスムの代表格でもある。
存在しない本の書評集、レムの『完全な真空』。ビートニクの筆頭ケルアックの『オン・ザ・ロード』、幻想に包まれたチェコの街並みを描くアイヴァス『もうひとつの街』など、世界文学の分野で幅広く手に取った。バオ・ニン『戦争の悲しみ』も白眉である。
恐怖小説の分野ではスティーヴン・キングの『アンダー・ザ・ドーム』も見事だ。大部だっただけにしり込みしていたが、自粛期間中に読破した。ドームに閉じ込められた町の中、それは閉鎖された地方空間に対する鉄槌と見えるか、あるいは鉄槌を下す側の赦しと成長と読み替えることもできそうだ。ジョルジュ・ランジュランの『蠅』はクローネンバーグの「ザ・フライ」の原作だ。かなり読みやすく、古典的なテーマを踏まえた恐怖小説という趣きだ。幻想文学、ゴシックホラー、モダンホラーの中間に位置するものとしてはマグラア『失われた探検家』も良い。
国内のものでは朝宮運河編の『家が呼ぶ』が良アンソロジーだ。家ものホラーというジャンルが注目されているが、その入門としても最適ではないだろうか。皆川博子の「U BU ME」がいっとう怖い。阿澄思惟という謎めいた著者による『忌録:document X』も見事の一言。おススメできる。三津田信三の家シリーズも三冊ほど読んだ。本邦で三津田信三の右に出る家ものホラー作家はいないのではないだろうか? もっともっと読んでみたい。
ライトノベルでは若き映画監督の魔術、野崎まど『[映]アムリタ』が良い。野崎まどの作品はまだまだあるので、ゆっくりと読んでいこう。川上稔の『連射王』もなかなかだった。久々にシューティングゲームをやり込みたくなる長編だ。これ以外にもまだまだあるが、長くなるので小説はこの辺で。
3.思想、哲学
映画と哲学の連携を読みたいと思い、丹生谷貴志の『ドゥルーズ、映画、フーコー』を読んだ。映画に映る自然的なものの復讐といったくだりがあった筈だが(記憶が曖昧)、そこがまたかなり面白い。ドゥルーズ理解は不十分なのでこれからの指標にしよう。あとはウィトゲンシュタインとハイデガーの入門書をそれぞれ読んだりした。ここら辺はYoutuberのネオ高等遊民様の紹介に頼った部分が大きい。陳謝!
佐藤優『キリスト教神学で読み解く共産主義』、これは私の知識不足故に上手く読書できたとは思えなかった。便利な参考文献までついているし、幸いにもKindleで購入しているので、字引的に利用するのも良いかもしれない。シュライエルマッハーのくだりについては例外的に良く覚えている。こういうとっかかりを大事にしたいものだ。
4.その他新書、学術書など
広河『パレスチナ』、細見『フランクフルト学派』、木澤『ニック・ランドと新反動主義』、岡田『世界史の誕生』、小坂井『社会心理学講義』あたりを面白く読んだか。おや、ダイジェスト的になってきたって? ちょっと疲れてきてしまったので、勘弁してぇ……。木澤さんについてはたまにそこここで評論を見かける。今後も精力的に活動してほしい。
カール・シュミットの入門書や、アナーキズム、形而上学、そしてプラグマティズム関連の本もいくつか読んだ。いずれも現代思想を語る上で欠かせないものだ。シュミットに関しては慎重に解釈したいところだけどね。
5.漫画
つばな『惑星クローゼット』、やわらかいタッチで繰り広げられる、グロテスク(現代的なスプラッタの意味だけでなく、前記事で紹介したような包摂的な意味で)異世界冒険譚。ついでに百合だ。そういえば百合SFというのも伴名練さんなどの作家がどんどん開拓しているようで、今後の読書の目標にしたい。それっぽいので言うと富沢ひとし『エイリアン9』もその範疇か? これもセカイ系的な名作だ。といっても、セカイの側から声があり、登場人物たちはそれに応える側ではある。
施川ユウキ『鬱ごはん』は良かった。まずそうなグルメ漫画っていうのもこれくらいじゃなかろうか? 最近は警察から逃亡しながらグルメ紀行をする漫画もあったりするので、全く食事というのはドラマなのだとつくづく感じる。例のワニ関連で華倫変『高速回線は光うさぎの夢を見るか?』も呼んだ。少女の痛切な感情が拡散し、最終的には客観的には無慈悲、しかし当事者的には慈しみに溢れた静寂に包まれていく過程に、リアルで口を覆ってしまった。反出生主義の悲しさと、魅力に溢れた漫画である。
忘れてはいけないkashmirの『てるみな』。ゲーム「ガラージュ」の世界を思わせる退廃的な街並みを、少女が電車でぶらり放浪。第一話からして京王線の車両が民家の軒先を削りながら走行したりする面妖な世界観。好きだ。
6.長い
いやぁ、長い。経済書、アニメ、映画、ゲームについても語りたかったが、いかんせん疲れた!! という訳で、見切り発車テンションで始めたコンテンツ紹介はいったん打ち切りたい。またいつか機会があったら各ジャンルごとに2020年の総括をするかもしれない。しないかもしれない。予定なんて決めない方が柔軟に記事を執筆できるというものだ。何となれば、ここは私の箱庭だから!!
それでは皆様、よいお年を。ねんまつ・つまんね。